●第2次予選&セミファイナル●

7月5日
今日の演奏予定時間は午後9時過ぎごろ。
昨日は朝10時だったのに。今日は夜9時。
こんなことにも臨機応変に対応できなければいけない。。。厳しい世界です。

自分なりに対策を考えた。
夜までの時間の使い方。
練習もしなければいけない、でも疲れすぎてはいけない、本番に、身体の一番いい状態を持ってこなくてはいけない。
考えた末、1日を2日と考えてしまおう!という結論に。・・・わかりますか?
かなり名案だと自画自賛していたのですが、
要するに、本番が夜だからといって朝のんびり起きるのではなく、
朝早く起きて、午前中みっちり、いや、かなりバリバリ練習をする。
お昼ごろ疲れる。→ご飯を食べて、ホテルに帰って寝る。 ここまでが一日。
夕方起きる。2日目の始まり。
もう本番道具(衣装など)を持って練習場へ。
練習したり、軽く食べ物をつまんだりして本番まで調子を整える。

これがなかなかうまく働き、精神と身体のリズムはばっちりだった。

ばっちりじゃなかったのが新曲。
4月後半には楽譜が送られてきていたにも関わらず、他のリサイタルがあったりとか室内楽があったりとかバタバタしていて、
ろくに譜読みをしていなかった。
シドニーに行く直前になって慌てて真剣に取り組んだが、暗譜するのはなかなか難しい。
だいたいは憶えているのだが、まだ1度も「完璧」には暗譜で弾けたことがないままこの日を迎えてしまった・・・。
朝、まず徹底的にこの新曲と向かい合う。
途中シューマンの練習もはさみながら、でもメインは新曲。
テクニック的に難しいことはないのだが、とにかく暗譜が問題。
さんざん対策を練って、やっと!初めて通して完璧に弾けた!!
おーこれを保たなくては〜〜〜、と思い、もうちょっと経ってからもう一度弾いてみる。
大丈夫。
おお、やったー!!!と思いながら今度は友人に聴いてもらう。
自分ひとりで弾いているのと誰か聞いている人がいるのとでは精神状態が違うからね。でももう大丈夫かな?♪ と思って弾くと、
・・・・・・・・・止まる。
いつもなら音がわからなくなっても適当にごまかせたのに、それでもまったくわからず、結局止まってしまった。
ガーン。
うううううー人生そう甘くはないのです。
友人もかなり心配そうな顔をしていましたが、
まあもうそろそろ私の練習時間終わりだから、仕方ない。次の子も来たし、切り上げてお昼を食べて、ホテルに帰って寝た。

起きてからも、やはり新曲を少々練習する。
しかしこれだけを弾くわけではない。他にハイドンのソナタと交響的練習曲がある。。。
夕方の練習は、もう新曲はあきらめて(・・・)、そちらをメインにした。

本番前。今回はカメラはいなかった。よかったぁー。
いつものように2部屋移動し、ステージへ。
まずハイドンのソナタから弾き始める。今朝一人だけ聴きに行ったのだが、その子がとても軽くて楽しいハイドンを弾いていたから、私もあんな風に弾けたらな〜と思いながらリラックスして、楽しんで弾いた。
最後までうまく集中でき、力もうまく抜けてなかなか良い演奏ができた。
さて、お次。問題の新曲。
順調に弾き始める。
お、割と調子がいい、と思い、音色をたくさん変えてみたり、普段はあまり注目していなかった声部を出してみたり、
かなり余裕で演奏していた。
残り1ページに差し掛かったところで、気が抜けたのか、変な和音を弾く。
その瞬間、次の音がまったくわからなくなってしまい、頭の中は真っ白。
幸運なことに(?)、そこは左右交互に和音を連打する箇所だったので、
楽譜とはまったく違う和音を適当に連打し続けていた。止まってはいけない。
その間頭の中は一生懸命カギとなる和音にたどりつこうと頑張って探しているんだけど、
楽譜の感じは頭に浮かんでも、具体的な音がどうしても出てこない。
もうこれはしょうがない、最後の1段まで飛んでしまえ。そう思いながらまだ和音を連打している・・・。
しかし、その最後の1段の音も思い出せない。
あらま〜このまま終われないのか?私、と思いながら必死で色んな音を弾いてたら、どうやら聞き覚えのある音を指がさわった。
その瞬間最後の1段にワープ!
なんとか曲を終わりにすることができた・・・。あーーーーーー疲れた。
私の頭の中はこんなに色々考えてたけど、実際の時間はほんの数秒の話だったかもしれない。
怖すぎて録音は聴いてないので真実はわかりませんが。

そんな、幽霊を見るより怖い体験をしたあと、
なんとか自分を落ち着けて、残る大山、シューマンに挑まなくてはならなかった。
自分なりに頭を切り替えたつもりだったが、やはりしばらくは動揺が残っていたらしい。
普段しないようなミスをしたり、ふとするとさっきのことを後悔する自分が出てきたりして、
始めのいくつかのエチュードは上手に集中できないで弾いていた。
まあ、なんとか後半は持ち直し、最後までパーッと弾き終えておじぎをしてそそくさと裏に戻った。

客席にいた人に話を聞くと、新曲の失敗はそんなに目立つものでもなかったらしい。
シューマンも後半良くなったから、全体的にはそう悪くない出来だったのではないか、と。
しかもこの新曲暗譜には誰もが苦労しているらしく、
そうとう有力なピアニストが途中でわからなくなって最初から弾きなおしたりしたり、
ハプニング続出だったそうだ。

まぁ、とにかく終わったわ。
この夜もまた同じ顔ぶれで飲んだ。飲みました。
だって大仕事したんだもんー。
それに明日は休日!(=弾かなくていい日)
少しのんびり過ごして夜の結果発表を待とうと思います。

7月6日
朝は目覚ましもかけず、寝たいだけ寝た。
起きてラジオをつけると今日の一人目が弾いていた。
新曲、完璧。
なんだよー、みんな何かしら事故を起こしてるっていうから安心したのに、ちゃんと完璧に弾く人もいるじゃないの〜!
まぁ、もう済んだことなので仕方ないです。
もう今回は本当に通るか通らないか、五分五分だなーと思いながら、すごすごと練習場へ。
あ、その前に、泊まってるホテルの下のカフェで朝ごはんセット。
これが美味しかった・・・。
分厚く切った食パンのトーストにたっぷりバターを塗ってあるものを斜めに三角形に切ってあるもの、
それとベーコンエッグ&トマトのオーブン焼き。
その朝食セットに、カフェラッテ(透明の縦長の取っ手付きグラスのようなものに入れてくれる)。
ホテル代には含まれていないのでお金は払わなきゃいけないんだけど、
これをのんびり食べられる朝はもう幸せいっぱいでした。
初めて頼んだときは多すぎて食べきれなかったんだけど、
胃袋って慣れてくるものですね。
2,3日も頑張れば、もう全部食べきるのが当たり前になってしまいました。
あーおそろしおそろし。

人の演奏を聴いたり、グリーンルームでだべったり、マッサージしてもらったり(こう本番続きだと、肩や腕のマッサージが本当に必要になってきます)しながら
一応、念のためにちらっと練習も。
次のセミファイナルでは50分のソロリサイタルと、室内楽(トリオ)の2ステージある。
私は室内楽がだーーーい好きなので、できればトリオは弾きたいなーーーーーー。そうしたらもう思い残すこと無いな〜〜〜〜、と思っていた。
そんな思いが通じたのか、もう何も期待しないで待っていた6時の結果発表、セミファイナルへ進む12人の中で私の名前も呼ばれた!
おおー強く思えば通じるものなのかもなぁ〜なんてのんきに喜んだのもつかの間、
なんともう明日、トリオを弾かなければならないとのこと!
えええーなんですと。
セミファイナルは3日間日にちが取ってあったから、まあもしかしたらとは漠然と思ったけど、深く考えずにいたから驚いた。
12人のうち、演奏順で前半6人、後半6人に分ける。
前半6人は先にリサイタル、次にトリオ、
後半6人は先にトリオ、次にリサイタル
となっていて、
私は運悪く7番目のセミファイナリスト=先にトリオを弾くグループの1番手=明日本番
ということになってしまったらしい。
エリザベートコンクールのときもそうだった。
セミファイナリストが半分で分けられ、私はその後半グループの最初の方の出番=セミファイナルの1日目に登場 ということになって不平を感じたものだ・・・。
この「半分で」という分け方はあまり賢くないと思う。
演奏順に、1番がリサイタル、2番がトリオ、3番がリサイタル、4番がトリオ・・・・というように分けていけばいいのに。

まぁ文句を言う時限ではない。言ったところでもう手元に予定表配られてるし。・・・え。
「7:00pm〜8:00pm No.7 Rehearsal with violinist and cellist」
ええと、ナンバーセブンて私のことで、今は午後6時45分で、なぬっ7時から合わせ〜??!???!?!
そういうことらしいです。
説明が一通り終わるともう7時ちょっと前。
すぐ下の練習室に移動して初合わせ。
ヴァイオリニストとチェリストは2人ずついて、
それぞれの組が交互に担当するというようになっていた。
私の担当になってくれたのは2組いるうちの若い組の方で、
ヴァイオリンが女性、チェロが男性。
2人はピアニストを足した3人でピアノトリオを組んで普段から活動しているそうで、
そのおかげで合わせもスムーズに進んだ。
まったくバラバラの3人が集まるよりずっと良い。
曲はショスタコーヴィチの2番。
何度か初見大会で遊びで弾いたことはあったけど、真剣に取り組む&舞台で演奏するのは今回が初めてだった。
ピアノのパートが比較的ラクだから、という単純な理由で選んでしまったけど、内容はとても深く、
あるCDを聴いたとき、全部聴き終わった後映画の大作を見終わったときのような感覚を覚えたことがあり、
私もそんな風に思わせる演奏ができたらいいなぁと思って取り組んでいた。
テンポの設定をピアニストがしなければいけない場面が多々あって、
それがなかなか難しかった。
しかも本番緊張すると速く弾く癖があるからますます心配。
何度かやり直して、コツをみんなで考えたりして1時間の合わせは終了した。
とてもやさしい2人で、でもコンクールだから意見を言い合うのではなく、2人が私の意見に合わせてくれるという形だったからちょっと面白みが薄かったけど、
ところどころ2人の意見もこっそり聞いて取り入れて、明日はいい演奏ができそうな感触は持てた。

合わせが終わってからちょっと個人練習をし、
明日朝9時からもう一度1時間の合わせがあるから、それにそなえておとなしく早めにベッドに入った。

7月7日
今日は七夕だなーなんてことはすっかり忘れてた気が。。。
朝早く起きて、グリーンルームで紅茶をもらって直接リハ室へ。
最終的な確認をしながら10時まで合わせ。
その後少々個人練習をして、11時にステージ上にて15分間ゲネプロ。
ピアノのふたは全開でいくことに決めました。
次のグループのゲネプロもちょっと聴いたりして雰囲気をつかんでから、本番支度へ。
弾くのは12時50分。
この日は緊張するよりも何よりもトリオが弾けることが嬉しくて、高まる気分を落ち着かせるために深呼吸してた感じ。

このトリオはチェロのソロ、しかもフラジオの旋律で始まるため、私よりもチェリストの方がはるかに緊張していた。
「いい演奏をしましょうね」などと言いながらステージに出る。
今までひとりぼっちだったのが、2人もお助けマンがついてくれていて、しかも譜めくりの人もいる。
それだけで精神的にだいぶ違う。
演奏は、チェロのソロも無事済み、私も、自分の性格の中の深刻な、暗い部分を(あるのか?)できる限り引き出して、
大きな映画を作り上げるように大切に弾いた。
とにかく最後までリラックスして2人のやっていることをよく聞きながら弾けたと思う。

さてそれが終わると、午後は明日のリサイタルのための練習。
明日の演奏時間は午後7時15分だが、
さすがに連日の本番でかなり疲れてきていた。
そのたびに緊張したりホッとしたりを繰り返しているせいで、身体的にだけでなく精神的にもドッと。
しかしそんな弱音も吐いていられないので、テロテロと練習を始める。
このリサイタルではもう何度も本番を踏んだ曲しか入れていなかったから、そんなにすごくたくさん練習しなくても済んだ。
夜、部屋に帰ってラジオでコンクールの様子を聴いていると、
みんな疲れがたまっているのだろう、変なミスをたくさんしたり、暗譜が怪しくなったりする人が続出した。
一人、私と同じベートーヴェンのソナタを弾く上手な女の子がいたからラジオで聴いていたら、
2楽章の途中でわからなくなり、また最初の方に戻ってしまったりしていた・・・。
それを聴いた瞬間、翌日自分が弾く曲ということもあり、急にすごく怖くなってきてしまった。
これ以上聴いてるのは良くないと思い、ラジオを消した。
きっと普段はそんな失敗はしないだろうに、これだけ過酷なスケジュールにやられてしまった感じだ。
こういうのを聴いていると、音楽性がどうこうという以前に、ただ事故なく弾ければファイナルに残れてしまうのではないか、という気がしてきた。
サバイバルゲームみたいだ。。。

7月8日
今日は夜にリサイタル。
また前回の要領で、朝起きてさらい、お昼寝し、ごそごそと起きて身支度を始める。
もうほとんど緊張することも無く、念願のトリオも弾けたことだし、もう失うものは無いという精神で本番にのぞんだ。
このコンクール中、そんなにものすごく緊張することはなかった。
というのは、私の精神状態が音楽に対してとても謙虚だったのだ。
毎ステージ、こんなすばらしい芸術を残してくれた作曲家に失礼のないような演奏をしよう、と。
今まで本番でこの精神でいられたことはなかった。
本番前、頭では考えていてわかっているんだけど、
舞台に出るときになるとどうしてもミスをしないように、とかいった自我が出てきてしまっていた。
でも、作曲家に敬意を表す=ミスをしない ということにもなるのだ。
作曲家が悩んで悩んですべての音を決めたわけで、ミスをするということはその作曲家が選んだ音を弾かないということになる。
ミスしたら作曲家に失礼。そんな風に思って挑んでいた。
おまけにそう考えると作曲家ごとのキャラクターの違いも出しやすかった。
それと、音楽という偉大な芸術に対して常に謙虚でいること。
いくら頑張っても音楽には勝てないのだ。
うーん、よくわからないけれど、そういうとても謙虚な姿勢で常に演奏していて、それがうまいこといっていた。

このリサイタルは弾きなれた曲ばかりでプログラムを組んでいたし、
他の人の演奏を聴いていて、落ち着いて普通に弾ければいいや、という気楽な気持ちでのぞむことができた。
自分のコンサートのようなつもりで、
まずベートーヴェンのソナタ18番、次にドビュッシーの前奏曲から4曲、最後にリストのダンテを読んで を演奏した。
終始落ち着いて、音楽を楽しみながら演奏できたと思う。
もう「コンクール」という意識はほとんど無くなっていたし。

ソロのステージがすべて終了して、明日からは、ファイナルに残ったとしても多少空き時間がある。
ご褒美にお寿司を食べに連れて行ってもらった♪
とーても美味しくて、ビールも久しぶりに日本のビールで、幸せいっぱいでホテルに戻ってぐーっすり眠った。

7月9日
念のためにちょこちょこコンチェルトをさらいつつ、
他の人の演奏をたくさん聴いた。
リサイタルとトリオを交互に聴けるので楽しかった。
夜10時ごろまで審査は続き、11時近くにファイナリスト発表だった。
私は疲れがたまってきていて眠くて眠くてしかたなく、
でも案の定発表の会場にはカメラが数台いたから、カメラの人たちに見つからないように、電気の当たっていない、隅っこのほうの席に陣取って、寝ていた。
ガヤガヤし始めたから起きてボーっと座っていると、審査員が舞台にゾロゾロと。見慣れた景色だ。
もう緊張することもない。他人事のように結果発表を聞いた。
オーストラリア人の男の子、中国人の女の子、ロシア人の男の子2人、私とニュージーランド人の男の子が選ばれた。
嬉しかったけど、同時に不安が押し寄せた。
ファイナルのコンチェルトは2曲。私はモーツァルトの20番d-mollとプロコフィエフの3番のコンチェルトを選んであったのだが、
本番を踏んだことがあるのはプロコの、1楽章だけ、かろうじて。
モーツァルトはこのコンクールのために譜読みを始めたし、プロコも1,2楽章はシドニーに来る直前にパリのエッシェンバッハのオーディションで伴奏なしで弾いたからまだ良かったけど、3楽章は暗譜も怪しい、というか弾けるのか?という状態。
ヤバい。
これは相当さらわなくては。

でも、結果を聞いて残念に思ったのは、せっかく審査プログラムにトリオを入れてあるのに、
あまり室内楽をよく知らない、いわゆるソロピアニストが審査員のほとんどを占めていたのだということ。
きっと私がまだ室内楽に興味が無かった頃、ピアニストの技量ばかり気にしながら室内楽を聴いていた時期があった・・・
それと同じような耳で聴いているのではないか、、、と。
ソロではよく弾けるのだけど、トリオでは相手のやっていることも聴かずに一人で突っ走って弾いている子や、
ヴァイオリンやチェロを消さないように、とピアノのふたをまるっきり閉めてただ小さ〜〜〜く弾いているだけの子も通っていたから。。。
何のために室内楽を入れてるのかなー?と疑問に思ってしまった。
室内楽には室内楽専用の審査員が必要なのではないか、と思ったり。。。

まあとにかく、ファイナルは13日からだから、やっとちょっと休みつつ練習に集中できる〜\(^○^)/
と思ったら大間違い。なんと早速明日モーツァルトの指揮合わせが・・・・・・・・・・・・・。
ちょっと休ませてくれ〜〜〜〜!!!と叫びたくなるようなスケジュールです、ほんとうに。
結局何も予定がない日って、ほとんどない。
10日 モーツァルト 指揮合わせ
11日 プロコ 指揮合わせ
12日 モーツァルト オケ合わせ
13日 モーツァルト ゲネプロ・本番
14日 プロコ オケ合わせ
15日 (空き)
16日 プロコ ゲネプロ・本番
17日 ガラコンサート

・・・がんばりましょう。

→つづき