●コンクールが始まる●

 

7月1日

朝9時30分から第1ステージ開始。
会場の響きを聴いてみたかったので午前中の練習を抜け出して会場へ行き、2人ぐらい聴いた。そしてすぐまた自分の練習に戻る。
本番前日ということで、一度通して弾いてみたものを録音して聴いて確認する作業をしていた。
私の出番は2日目の3人目。第1ステージの演奏は1人20分。ということは朝10時10分頃弾き始める計算となる・・・。
明日弾くのはデュティユー、ショパンエチュード3度、リスト10番。どれも何度か本番を踏んだ曲ばかりなので、比較的安心して弾ける。
明日のプログラムに重点を置くことを忘れないようにしながら、次のステージの練習も少しした。
この日は・・・確かホテルのすぐ近くで回転寿司(シドニー風・・・アボカド&いくら巻きのようなものが意外と美味しかった)。
夜8時ごろには部屋に帰り、明日の洋服など持って行くものを確認して寝る。
あ、書くのを忘れていたけど、実は毎日練習室を取るのはちょっとしたバトルなのだ。
練習室番号と時間帯が表にしてある紙に各自好きな枠を2つ選んで名前を書き込むのだが、
その紙というのが午後4時にグリーンルームに貼り出されるのだ。
その時間にちょうど練習しに行っているときはいいのだが(まぁ、貴重な練習時間の中抜け出して名前を書きに行かなくてはいけないのだが・・・)
ホテルで休んでいたりしていた場合、それだけのために7分歩いてグリーンルームまで行き名前を書かなければならない。。。
夜書くことももちろんできるのだが、もうアップライトの部屋しか残っていないし、時間帯なんて選べなくなっている。朝7時からの枠しか残ってなかったり。
だから4時ちょうどにその場にいないといけないのだ。
私も毎日頑張っていたが、何日か4時にそこにいられないことがあった。
前々からそれがわかっていれば友達に頼んで自分の名前を書いておいてもらうように頼むのだが、
その日は突然そんなことになって、もう良い練習室を取るのはあきらめていた。
そして夜すごすごとグリーンルームに行ってみると、なんとグランドピアノの部屋に私の名前が書いてある!
実は午後4時に私がいないことに気づいた日本人の数少ない参加者、高田君と後藤君が私のために名前を書いておいてくれたのだ・・・!
このときは本当に感動した。泣きそうだった(笑)
コンクールというとみんながカリカリしてライバル視しあっているようなイメージがあるかもしれないけど、
実際の雰囲気はとてもやんわりしていて、みんなで仲良く協力しあえる環境であることが多い。
中には自分勝手な人もいるけれど、やはり将来残っていく演奏家というのは人間もできてる人なんだと思う。
それにしてもこの親切心には感動しました。こんな仲間がいて私は幸せだと思った。どうもありがとう。


7月2日

午前6時起床。
今日は、普段絶対使うことのない、朝7時からの枠を予約しておいた。
身支度をのんびり済ませ(寝起きの行動はびっくりするほどのろいです)、ホテルを出たのは7時過ぎ。
こんな時間に外に出たのは初めてだった・・・まず寒さにびっくりした。
オーストラリアは冬だ、とは知っていたけど、日中はかなりあたたかく、長袖シャツ1枚で十分すごせるほどなのだ。
それしか知らなかった私は朝がこんなに寒いことに驚き、本番直前用に持ってきていた手袋を慌ててはめた。
まずはグリーンルームに行って・・・するとサンドウィッチやフルーツがもう用意してあった。
おばちゃんたちはこんな時間からここに来て私たちのために働いてくれてるんだ・・・。話には聞いていたけど目の当たりにしたのは今日が初めてだった。
パンとハム、チーズ、紅茶をいただいてから練習室に向かった。
ちょっと弾いたけど、体に血がめぐっていない感じがしたのでラジオ体操を・・・。
出番の1時間前にグリーンルーム集合となっていたので9時過ぎごろには弾くのをやめて下に降りていった。
まずプログラムにどういう順番で曲を演奏するか番号をふり、下にサインを。
その後、グランドピアノ付きの控え室に連れて行かれ、そこで着替えや、ちょっとした練習をする。
本番20分前になると、ステージのすぐ横にある部屋(小さめのホール)に連れて行かれ、最終調整をフルコンサートグランドでできるようになっていた。
演奏する何分ぐらい前に舞台裏に行きたいかちゃんと聞いてくれて、私は5分前には行っていたいと答えるとちゃんとその時間に呼びに来てくれた。
舞台裏に行くとストーブが置いてあって、ちゃんと集中できる環境になっていた。
係りのおばちゃんが気を遣って色々話しかけてくれたのがちょっと計算外だったけど、、、頑張って自分の世界に入るようにした。
このコンクールは第1次予選からラジオで生中継され、それがインターネットで聴けるため、日本にいる両親にも演奏を聴いてもらえる。
それはすばらしいことなのだが、その代わり、放送時間の関係上、タイムスケジュールはかなりきっちりしなければいけない。
そして各参加者登場前にちょっとしたプロフィールとプログラムのアナウンスが入ってから演奏が始まるようになっていた。
私は、ラジオのパーソナリティーのおじちゃんだかおばちゃんだかが「それでは、日本からの参加者、シマダアヤノさんの登場で〜す!」なんて言うのを聴いてからステージに出るものかと思っていたら、
さすが、そこらへんもしっかり配慮してくれてある。
しゃべる人のデスクは舞台裏からはまったく見えないところに置いてあり、しかもその声も係りの人だけがヘッドホンを通して聞けるようになっており、
私はそのお兄さんの指示でステージに出れば良かったのだ。
椅子の高さも種類も、ピアノ選びの際にきちんと測ってくれてあり、各参加者登場前にそのお兄さんが合わせてくれるので、
ステージ上で椅子の調節をする必要もない。
ここまで徹底して参加者が本当に演奏だけに集中できる環境を作ってくれているコンクールは他にはなかなか無いのではないだろうか。

さて、肝心の初演奏。
ステージに出ると、1次にも関わらずかなりの数のお客さんが温かい(なぜかそう感じた)拍手で迎えてくれた。

演奏中の照明も、そうとう暗くしてあるのか、お客さんがまったくといっていいほど見えない。
一人でステージを借り切って弾いている錯覚におちいるほど。
そのおかげで、常に高い集中力を保ったまま演奏できた。
1次は一人20分。デュティユーのコラールとヴァリエーションからスタートし、ショパンの3度のエチュード、リストの10番のエチュードを演奏した。
お客さんも喜んでくれていたし、自分なりにも良い手応えを感じた。

裏に帰って着替えて、朝早かったのでホテルに戻り少し寝た。
実はこのコンクール、1次が2ステージあるのだ。
第1ステージでうまく弾けたかどうかに関わらず、全員がまた、明日からの第2ステージで違う20分のプログラムを演奏しなくてはならない。
またいつものごとく午後4時ごろ出向いて、翌日の分の練習室を予約した。
みんなが紙に殺到するので、午後4時のグリーンルーム前は格闘場と化していた。。。
夜少々練習してからホテルに戻り就寝。


7月3日
朝はのんびりし、途中から第2ステージを聴きに行った。
音楽の好き嫌いはあるけど、みんな良く弾くなあ〜〜〜〜と他人事のように、でも色々考えながら数人だけ聴いた。
練習をしたり、美味しいタイカレー屋さんに連れて行ってもらって久しぶりにお米を食べて元気になったりしながら、わりとのんびり一日を過ごす。
2次は、何度か本番で弾いているドビュッシーの花火を弾くのだが、なぜかどうもしっくりこない。
不安に思いながら、ゆっくり丁寧に確認練習をして、早めに切り上げてホテルに帰った。また明日は6時起きだ。

7月4日
第1ステージのときの教訓を生かし、寒さを覚悟して朝練習場に出かける。
このあいだなかなかうまくいったから縁起を担いでまた同じ部屋を予約し、同じように朝食をいただき、紅茶を持って練習室に向かった。
花火はまだいまいちしっくりきてなかったけど、まぁなんとかなるでしょう、とポジティブ思考で練習を切り上げ、前回と同じように本番直前作業をこなす。
しかし、なんとキャメラマンがいるではないですか。
「あなたのウォーミングアップの様子を少しだけ撮らせていただいてもいいですか?」
断るほどのことでもないと思ったのでOKする。
第1の部屋に係りのおばちゃんに連れられて行く様子を後ろから撮られている。
第2の部屋(小ホール)に入ったときも、指ならしにピアノを弾いてる姿を数分撮影。
舞台裏で手を温めたり、机の上で指を動かしている様子もこっそり撮っている様子。
どうやら全員に同じことをしているわけではないようで、
「えー私もしかして注目されちゃってるの〜♪?」なんてちょっと思ったりしたら、第1ステージのとき以上に緊張してきた・・・。
これはいかん、これはいかん!と焦って深呼吸。
なんとか平静を保ちつつステージへ向かう。
悩んだ末、ラフマニノフのエチュードOp.39-1から始め、次に心配な花火、続けてブラームスのパガニーニ変奏曲を演奏。
花火がやっぱりパーフェクトではなかったけど、あとの2曲はなかなか満足のいく演奏ができた。

着替えてから、数人の演奏を聴いて、ホテルに戻って寝る。
起きて部屋のラジオをつけるとちょうど友人が弾いていた。
もともと良く弾く子だが、ラジオだとすごく上手に聞こえる。
軽く自信喪失しそうになりながらもなんとか最後まで聴いてラジオを消し、練習場に向かった。
今夜発表があるわけだが、通る人によっては、もしかしたらもう明日、第2次予選を弾かなければいけないかもしれないのだ。
今朝弾いたばっかりなのにな〜〜〜と思いながら、でももしものことを考えて仕方なく練習する。
なんといっても2次予選が一番ネックなのだ。
このコンクールのために作曲された新曲を「暗譜で」弾かなければいけない・・・。
しかもシューマンの交響的練習曲という大曲、しかもあまり長く持っているわけではない曲を入れてある。
ふんばりどころです。

発表は午後6時となっていた。
会場に入って友人としゃべりながら、緊張した面持ちでそのときを待つ。
そう長く待つことなく、ステージ上に審査員全員がぞろぞろと登場した。
審査委員長のおじちゃんがマイクに向かってしゃべる。
こちらの心臓はバクバクである。
順番に名前が呼ばれていき、印を順々につけていくのだが、その手がかすかに震えているのがわかる。
自分の名前が呼ばれたときはかなりホッとした。
20人が第2次予選に進んだ。

第2次予選も2日間あるのだが、恐れていたとおり、やはり1日目の最後、という出番になってしまった。
最後だからまだ良かったけど・・・でもとにかく、明日だ。

通過者が集められて簡単な説明があったあと、練習室が閉められる時間ぎりぎりまで練習した。
友人に1度通して弾くのを聴いてもらってアドヴァイスをもらったりしている間に「はい、もうおしまいの時間ですよ〜」と管理人のおじちゃんが登場。
素直に引き上げ、せっかく通ったんだから何もせずホテルに戻るなんてことはできないでしょー、ということで
もう一人の友人と3人でレストランへ。
明日本番だけど、まぁ夜だからいっか、と割り切ってオーストラリアビールで乾杯。
美味しかった〜♪

→つづき