気まぐれ日記
〜novembre〜

 

*11/14*  エッセール先生 

 

mardi 14 novembre 2000

◆エッセール先生

お久しぶりです。コンクールから帰ってきてからかなりのんびりしてました。よく休みました。。。

今日は愛すべき我が恩師について書きたいと思います。

毎週火曜日レッスンなのですが、彼はいつも前日の夜に電話をかけてきて、レッスン時間を決めます・・・。
これは入学当初からずっとなので、いい加減慣れました。
いまだに「どうしてもっと前に決められないのか」という疑問はありますが。。。

それがここ2回ぐらいもっとすごくなりました。
電話がかかってくるのが当日の朝になったのです。(笑)
月曜日の夜、私から何度かかけるのですが、先生の携帯はいつも留守電。
一応メッセージを残して切ると、いつもなら夜11時ごろまでにはかかってくるはずなのですが、
12時を過ぎても何の連絡もありません。
「あぁ、これは明日のレッスンは無いってことだな。」
今まで前日の夜に電話がない日は、たいてい先生が演奏旅行に出かけていたりしてレッスンはナシだったのです。
あると思っていたレッスンがなくなると、妙に解放的な気分になるもので、
ビデオで映画を見たりして、大好きな夜更かしを満喫し、眠りにつくのは2時、3時。。。
一応9時半ぐらいに目覚ましをかけて寝ます。(毎日朝早くから働いてる方々、ごめんなさいっ)

いい気分で眠っていると、電話が鳴る音で目が覚めました。時計を見ると、ちょうど9時ごろ。
こんな早く誰だろう・・・・・・。
寝ぼけながらも一応咳払いで声を整えて、アー、アー、と発声練習してから受話器を取ると
「C'est Jean-François HEISSER.」
先生ではあ〜りませんか。
がんばって、いかにももう起きてたような声で挨拶すると、
「今日、お昼頃レッスンに来れる?」
・・・・・・・・・きょ、、、今日の昼・・・・?? と思いながらも
「Oui. Pas de problème.」・・・・・・・ 「はい」だけでなく「問題ないです」まで付けてしまうわたし・・・・。
でも受けられるときに受けておかないと、先生がコンサートで忙しいときはレッスンがないから。。。

こんなことが2週間連続した。
私も1回でこりればいいのに、2回目も「今回こそ明日のレッスンはなしってことだろう。。。。」と決めつけ、また夜更かし・・・・。
来週からは電話がなくても早く寝ます。はい。

まぁ、レッスンは相変わらず細かくて、今は先生がこのあいだCDを出したばかりのベートーヴェンop.110をやってることもあって
説得力のあるいいアドヴァイスをたくさんいただける。

レッスンが始まる前、部屋に入るとめずらしく「ちょっと頼みたいことがあるんだけど。」なんて話してきた。
いつもは挨拶だけして「今日は何持ってきたの?」とか、
時によってはピアノの前に座り、楽譜を開いて、挨拶だけで無言のままレッスンが始まることだってある。
それが、今日はおはなし・・・。なんだろう、と耳を傾けていると、
夏の講習会で私が弾いた現代曲の楽譜が必要になったからなるべく早く返してほしいということだった。
すっかり忘れてた。ずっと借りっぱなしだった。コピーだけ取って、どこやったっけ・・・状態。。。
「ごめんなさい、まだ返してませんでしたね・・・・。おうちにお届けします。いつがいいでしょう?」
と言うと
「もしかして今日の夜は空いてる?歌の人とコンサートをやるんだけど。」
「あ、空いてます。じゃ、そこに持って行きます。」
「それじゃあ・・・・ついでに譜めくり・・・できる?」
「え・・・は、はい。もちろん。」
レッスンもいきなりなら何言うのもいきなりな人だ・・・・・・。
突然重要な用事ができてしまった。

レッスンのあとそっこう家に帰り、まず楽譜を探した。
といっても、心当たりのところにちゃんとあったから、探さなくて済んだけど。
それから譜めくりするのに何を着て行くか悩んだ・・・・・。
寒いけどセーターじゃモソモソになるし・・・・・・。

まぁなんとか決めて、お化粧もして、6時ごろ家を出た。
パリにしてはめずらしく、夜7時から始まる演奏会だった。(普通は8時とか8時半から。)
場所は新しくできた国立図書館の中のホール。
初めて行ったけど、やたら敷地が広くて、メトロの駅からも歩くし、不便なところだった・・・・・・・。
予定通り15分前ぐらいに楽屋に着いて、まず先生に忘れないうちに楽譜を渡した。
舞台裏の先生を見るのなんて初めてだったから、興味があって、観察していた。
本番直前はどんなことするんだろう。どんな風に精神統一してるんだろう。
しかし、舞台裏でも先生は先生だった。
今日はソロじゃなくて歌の伴奏だから気軽なものかもしれないけど、
本番5分前に携帯電話片手に廊下に出て行く。。。。。。。。。おお、、、、しゃべってるよ・・・・こんな直前に。
もう始まりますよ、って呼びに来るころやっと帰ってきた。
そして楽譜を、心配なところだけパラパラと見て、
「じゃ、これ持って出てきて。」と私にコピーの山を渡し、
メゾ・ソプラノのおねーちゃんと一緒に舞台に出て行った。

そう、今日の譜めくりはちゃんと本になってる楽譜ではなく、コピー譜だった。
でもちゃんとめくり方も指示してくれた。
2枚並べておいて、右のページになったらそれを左にずらす。
「右のページを弾いてる途中でずらしてね。最後まで待たないでね。次のページの音がわからないとつっかえちゃうから。」
そんなことまで説明してくれなくてもわかるけど・・・。(笑)
まぁ、とにかくしゃべるっていうことがめずらしい先生だから、こんなにしゃべってくれるだけで私は嬉しかった。(爆)

演奏は素敵だった。
歌の人も、、、最初は調子が出なかったらしくちょっと大変だったけど、
どんどん声の調子もよくなっていって、音楽的には(当たり前かもしれないけど)和声感もちゃんと持っているいい歌手だった。
先生のピアノはやっぱりすごい。
もう自由自在に音を、タッチを操っている感じ。
ときどき、ちょっと音大きすぎるんじゃないの〜?と心配になる部分もあったけど、
ん〜ん〜唸りながら、顔は無表情で、でも情熱的で素敵な音楽を聴かせてくれた。
あと、1曲移調して弾いてるのもあった。テンポが速くて音もいっぱいの曲だったのに・・・・・。
よく、「本番で」書き直してない楽譜を見て弾けるな〜と感心した。

アンコールも譜めくりをして、私の仕事は終わった。。。
やっぱり本番直後は先生も気分が高まるらしく、口数が多かった(笑)
拍手が止むのを確認すると、歌のねーちゃんと成功をたたえ合って、
そのあと、舞台上で先生がもらった花を「どうもありがとう」と言って私に差し出した。
えー。。。。自分の先生の譜めくりをするなんて当たり前のことなのにぃ〜・・・。
しかもこっちの方が勉強させてもらえて幸せだったのに。。。
先生、自分がもらったお花を・・・・・・・・・・
躊躇していたのだが、結局オレンジピンク色(?)の大きなきれいなバラ3本いただいてしまった。
なんだかそれがすごく嬉しくて、帰り道はニタニタしっぱなしだった。
こんなことしてくれちゃう人だから
普段無口でも、当日の朝にレッスンの電話をかけてきても許せてしまう。
人間的にはとっても温かい人。
でも顔が怖くて、めったに笑わないし、嬉しくても(怒ってても)感情を表に出さない人だから誤解されることも多いみたいなんだけど、
彼のクラスの生徒は、みんな彼のことが大好きで、尊敬してる。
レッスンのとき、生徒の横で座ってる姿は、まるでくまのぬいぐるみっていうイメージなんだけど。(笑)
でも立ち上がると背は思ったより高くて、、、かっこいい・・・・・・なんていう言葉を使うとおかしいんじゃないかと思われるかも・・・。
とにかく私は先生が大好きです。
今一緒にいられるうちに、なるべくたくさんのことを吸収しなくっちゃ。

家に帰ってきてすぐワインの空きビンにバラを飾りました。(うちには花瓶ちゅ〜ものが無い。。。)
部屋の中に私以外の生き物がいてしあわせ♪・・・・・いや、一人暮らしをしてる人には気持ちがわかってもらえるはず。
人じゃなくても、動物じゃなくても、花だって立派な生き物なんです。
いつも飾りたいとは思うんだけど、自分じゃ花買うお金でケーキ買っちゃうからな。。。
お花を買って持ってきてくれるような人もおらんし・・・・(悲)。

Topへ
indexへ